血液型占い

毎日新聞 (2007年2月14日 東京朝刊)に「血液型占い」について書かれた記事がある.以前から,なんとかしてこの非科学的な占いのトリックをあばいてやろう,と調べていたので,その意向に沿った記事を見つけて非常に興味を持った.

理系白書’07:第1部 科学と非科学/3 根拠ない血液型性格判断
インタビューの回答者:作家の松岡圭祐さん
 <社会の中へ>
 
 ◇「信じたい心」に響く
 
 昨夏、「怖いくらい、よく当たる」と、インターネットで話題になったサイトがある。「究極の血液型心理検査」。指示に従っていくつかの質問への答えと血液型を入力すると、「あなたの性格」が表示される。6〜9月の97日間に483万人が訪れ、9割近い432万人が検査結果を「当たっている」と答えた。
 
 実はこれは「だまされる心理」を巧みに使ったニセ検査だった。現在は、ニセ検査であることも含めて「種明かし」が載せられている。仕組みは占いの本に出ている「性格」を適当に組み合わせ、回答者の答えに関係なく表示するだけ。このように、誰にも該当するようなあいまいな内容を「自分に当てはまる」と思い込む現象は、心理学用語で「バーナム効果」と呼ばれる。
 
 サイトを作った作家の松岡圭祐さん(38)は昨年6月、新作「ブラッドタイプ(血液型)」を出版した。血液型性格判断ブームが過熱し、「協調性がない」とされたB型の人への偏見や差別が広がった近未来の社会を描いたフィクションだ。「人の性格は多面的で、血液型だけで『こういうタイプ』と決めつけ、判断の基準にすることは間違い」と作品で訴えた。
 
 「首相官邸のホームページで安倍晋三首相のプロフィルに血液型が書いてあるが、輸血時に必要だからという理由ではないはず。血液型と性格に関係があるという非科学的な考えが根強く残っているのは、科学技術立国として恥ずかしい」と松岡さんは話す。
 
   ◇   ◇
 
 血液型と性格に関係がある、という説は昭和初期、日本の心理学者の研究から生まれたとされる。70年代、関連本が相次いで出版された。
 
 佐藤達哉立命館大教授(社会心理学)によると、テレビでは「発掘!あるある大事典2」などが取り上げ、2004年には血液型性格判断を前提にした番組が70本以上放映された。これに対し、第三者機関「放送倫理・番組向上機構BPO)」は04年12月、「根拠は証明されておらず、血液型で人を分類、価値づけする考え方は社会的差別に通じる危険がある」として、こうした見方を助長しないよう放送局に要望し、現在は下火になっている。
 
 なぜここまで根付いたのか。松岡さんは「星座占いなどに比べ、血液型は医学的な根拠がありそうに見える」と分析する。
 
 「厳密に言えば、ニセ検査で多くの人がだまされただけでは、血液型と性格は関係ないことの証明はできない。ただ、自分の判断の根拠がぐらついた経験を、疑問を持つきっかけにしてほしい」と松岡さんは期待する。
 
   ◇   ◇
 
 立命館大の安斎育郎教授(66)=放射線防護学=は約10年前、京都の中心部を流れる鴨川の河原に「四柱推命と西洋占星術 占いの館」と看板を掲げたテント小屋を開いた。安斎さんは占師ではないが、事前に占いのコツを学び、占ってみせた。2日間で206人の老若男女が訪れ、「皆、信じて帰った」という。
 
 この試みの理由は「占いに解決を求める人々の『心模様』を知りたい」という思いだった。安斎さんは「問題を解決しようと思えば、現実や原因を直視することが必要だが、占いはそれをしなくても不運や不幸を楽に処理してくれる」と分析する。血液型性格判断を信じる人の心模様も同じだと見る。
 
 そんな「信じたい心」にどう向き合うか。
 
 安斎さんは「科学や合理性を振り回すだけでは駄目だ」と言う。占いを信じる人たちに、占いを否定した瞬間、彼らは耳を傾けなくなるだろう。「科学でも分からないことは山のようにある。人々がなぜそのような心境になったかを理解することが最初の一歩だ。そのうえで、一時的な安心や簡単な解決法だけを求めるのではなく、別の見方や何が問題の本質かをじっくり立ち止まって考える姿勢を示すことが必要です」【西川拓、永山悦子】
 
 ◇ABO式以外に数十種類
 
 「血液型と性格との関連について、科学的な根拠はありません」と、産業技術総合研究所の成松久・糖鎖医工学研究センター長(糖鎖生物学)は説明する。
 
 一般に「血液型」と呼んでいるのは、赤血球の細胞膜にある「糖鎖」と呼ばれる分子の構造の違いだ。1900年、A型、B型などのABO式血液型が最初に見つかり、その後の研究でABO式以外にも数十種類の血液型が見つかった。成松さんの研究チームは、ルイス式とIi式の血液型の遺伝子配列を解明した。
 
 血液型は輸血や臓器移植などの医療現場では極めて重要だ。A型はA抗原、B型はB抗原、AB型はA抗原とB抗原、O型はH抗原を持つ。異なる型の血液が体内に入ると、抗体が抗原を認識して免疫反応が起き、血液が固まったりする。この抗原は内臓の細胞上にも存在し、ウイルスや細菌への感染に影響を及ぼす。神経細胞にも抗原が存在する可能性がある。「だから性格にも関係するとの主張があるが、証拠はない」と成松さん。
 
 ABO式の一種に「ボンベイ型」という血液型がある。A、B、Hすべての抗原を持たない。非常に少ないが日本人にもこの型の人がいる。成松さんは「A、B、AB、Oのいずれにもあてはまらないボンベイ型の人は、どんな性格なのでしょうか」と話す。

http://www.mainichi-msn.co.jp/science/rikei/news/20070214ddm016070128000c.html
 
日本は,血液型の分布が均等に分かれている.これは,世界的に見れば稀である.例えば,ブラジル人の殆どは「O型」である.このように大半の地域の血液型分布は1つの血液型に偏っているが,もちろん,そのような地域には「血液型占い」など存在しない.
 
「本当に意味のあること」は,世界のどこでも通用するだろう.「日本でしか通用しない価値観」は,一度疑ってみた方が良い.